7月2日(土)、7月例会を行いました(参加者:9名)。大阪大学大学院の古林小百合さんが、「豪農による地誌出版の経緯とその受容―備中国川上郡平川村平川金兵衛による地誌『備中府志』の出版活動を事例として―」と題して、報告をして下さいました。
『備中府志』は、平川村の庄屋を務めた平川金兵衛が備中国の古城跡について著した地誌です。報告では、先行研究の成果を踏まえながら、平川金兵衛が大坂の書肆毛馬屋から『備中府志』を自費出版した経緯について、主に平川金兵衛と毛馬屋との書状等から詳しく分析されていました。
参加者からは、出版された『備中府志』の受容層は由緒を持つような上層農民に限られたのではないか、自費出版の場合、版木の所有権は著者と書肆のどちらにあるのか、『備中府志』を出版した毛馬屋の性格などについて、意見が出ました。また報告では、『備中府志』は武士層にも読まれていたことが指摘されていましたが、史料解釈を通して、その武士は備中国出身あるいは何らかの関わりを持つ者であったのではないかといった意見も出ました。
個人的には不勉強な部分が多く、終始参加者による議論の傾聴でした。今回の報告を通して、庄屋クラスの上層農民が地域の過去に目を向けてその成果を地域へ還元した点に、近世の人々が持っていた地域意識の一端を感じることができたと思います。(小野)