お知らせ

2016年7月例会報告

 7月2日(土)、7月例会を行いました(参加者:9名)。大阪大学大学院の古林小百合さんが、「豪農による地誌出版の経緯とその受容―備中国川上郡平川村平川金兵衛による地誌『備中府志』の出版活動を事例として―」と題して、報告をして下さいました。

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 『備中府志』は、平川村の庄屋を務めた平川金兵衛が備中国の古城跡について著した地誌です。報告では、先行研究の成果を踏まえながら、平川金兵衛が大坂の書肆毛馬屋から『備中府志』を自費出版した経緯について、主に平川金兵衛と毛馬屋との書状等から詳しく分析されていました。

 参加者からは、出版された『備中府志』の受容層は由緒を持つような上層農民に限られたのではないか、自費出版の場合、版木の所有権は著者と書肆のどちらにあるのか、『備中府志』を出版した毛馬屋の性格などについて、意見が出ました。また報告では、『備中府志』は武士層にも読まれていたことが指摘されていましたが、史料解釈を通して、その武士は備中国出身あるいは何らかの関わりを持つ者であったのではないかといった意見も出ました。
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 個人的には不勉強な部分が多く、終始参加者による議論の傾聴でした。今回の報告を通して、庄屋クラスの上層農民が地域の過去に目を向けてその成果を地域へ還元した点に、近世の人々が持っていた地域意識の一端を感じることができたと思います。(小野)

2016年6月例会報告

 6月11日(土)、6月例会を行いました(参加者:4名)。山下洋さんが「第一七師団の設置と風紀問題」と題して、報告をして下さいました。

 今回の報告では、日露戦争後に新設師団の誘致活動が全国的に活発化する中、その実態を風紀に関する諸問題を中心に、岡山地域を事例として当時の新聞記事から検討されていました。

 師団をはじめとする軍隊の存在は地域社会に大きな影響を及ぼしますが、風紀に関する主要論点としては、やはり遊郭が挙げられます。岡山地域でも従来から存在した遊郭の位置をめぐって、様々な意見を持つ人々が現れます。報告では、師団設置による地元経済への効果を期待した経済界や、風紀悪化を懸念し「教育地」である岡山を守ろうとする教育関係者等、兵士だけでも数千人規模の人口増となる師団設置をめぐって生じた地域社会内部のせめぎあいについて、明らかにされていました。
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 報告後の議論では、師団誘致活動だけでなく師団設置後における地域社会の様相を、物流や就業別人口等を例に数値を用いて分析することも必要である、他の師団設置地域との比較をとおして岡山地域の特質が見えるのではないか等といった意見が交わされました。また風紀問題だけでなく、師団誘致活動における用地買収や設置費用の点についても議論となりました。

 近代日本を考える上で軍隊は重要な論点の一つですが、地域社会と軍隊との関係をめぐる研究は近年になってようやく盛んになりました。「天皇の軍隊」と称されることが多い日本軍がどのように地域社会や一般民衆と関わっていたのか、史料の残存状況にもよりますが、各地域での事例研究の蓄積が今後も必要だと思われます。

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次回は、下記の要領で行います。皆さんのご参加、お待ちしています。

日時:7月2日(土)13:30~ 

場所:岡山大学 総合研究棟 2階演習室(5)

報告者:古林小百合さん

タイトル:「文化人による地誌出版の動機と経緯―備中国川上郡平川村庄屋平川金兵衛による地誌『備中府志』の出版活動を事例として―」

2016年4月例会報告

4月24日(日)午後、4月例会を行いました(参加者:8名)。
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今回は、島村豊さんが「宇喜多直家による島村豊後守入道観阿彌の「仇討談」について」について報告されました。
戦国期、宇喜多直家による島村氏への仇討ちについて、近世編纂物や一次史料を収集、整理して、検討した内容でした。

国人領主島村氏については、史料が少ないのですが、岡山県内はもちろんですが、中国・九州地方まで史料探索をされたことを元に、お話しいただきました。

参加者からは、近世編纂物の利用に関する可能性と課題、国人領主島村氏自体の評価をどうして考えたら良いのか等、建設的な話し合いで盛り上がりました。
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報告してくださった島村さん、参加してくださった皆さん、ありがとうございました。

次回は、5月14日(土)に『幕藩政アーカイブズの総合的研究』の合評会を行います。詳細については、会の掲示板に載せておりますので、そちらをご覧ください。

なお、今年9月をもって、現在使用しているホームページのサーバーが使えなくなることから、下記のアドレスへと変更しました。ブックマークされているURLの変更をお願いします。

http://www.geocities.jp/okayama_chihoshi/

2月例会について

2月例会について

下記の要領で行います。すでに、参加希望受付は終了しました。資料の準備等の関係で、新たな参加はお引き受けできません。ご了承ください。

☆2月例会
四国中世史研究会と合同の例会になります。内容は、林原美術館蔵の石谷家文書 を利用した研究発表会を予定しています。
日時:2月27日(土)13:00~
場所:岡山県立博物館講堂
備考:例会への参加にあたっては、資料代500円が必要になります。

3月以降の例会を希望される方は、内池までご連絡ください。

なお、4、5月については、すでに希望がありますので、3月もしくは6月以降の例会となります。ご了承ください。

2015年12月例会報告

 今回の例会では、倉敷市総務課歴史資料整備室の立石智章さんが「備中岡田藩主の領内巡見とその特質 ―代替りの巡見を中心に―」というテーマで報告されました。

 備中国下道郡および美濃、河内、摂津に領地を有した一万石程度の外様小藩である岡田藩主伊東家による領内巡見について、岡田藩の記録や大庄屋の日記を手掛かりに丁寧な分析をなされていました。

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 報告では、下道郡内の飛地であり他領を通行しなければならない水内(みのち)への巡見を中心に検討が加えられていました。その中で、近村への巡見よりも多くの費用をかけて参勤交代に近い規模の行列を整えたことや、巡見の際に村々が藩主を「馳走」することを名誉として認識していたことを指摘されました。

 

報告後の議論では、多岐にわたる論点が出されました。村役人による「馳走」が村内部における社会秩序の再確認と成り得たことや、他領と接する村の境目を確定することがあったことから、巡見は村にとって名誉以上の意味を有していたのではないか、という村の側からの視点が示されました。また、小藩であるがゆえに領民との関係維持のためには岡田藩自身が巡見を必要としたのではないかという意見もありました。その他、入封時の巡見との関係を問う意見や、他藩の事例紹介もあり、とても活発な議論となりました。

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今回の例会報告は、小野功裕さんが書いてくれました。ありがとうございました。

2015年10月例会報告

1017日(土)午後、10月例会を行いました(参加者13名)。

報告者は、岡山大学大学院の上村和史さんで「岡山藩議院の設立と議院における議論」というテーマで報告して下さいました。

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岡山藩議院とは、明治2年から4年まであった岡山藩の議事機関で、士族が議員となる上院と、百姓・町人が議員となる下院に分かれていました。さらに下院は、各郡・各町村にも議院が置かれ、本報告では邑久郡の議院の議頭を務めた野崎万三郎の残した史料から、その詳しい実態を明らかにされました。




とくに、郡議院の議者(各村の代表)が与えられた議題に対して意見を述べた書面がまとまって残されているのは興味深く、本報告では堕胎圧殺の防止に関する議題を採り上げて、その議論の経過を分析されました。藩議院を、近世の村役人集会の仕組みを継承しつつ、さらに近代の府県会へと展開してゆくものと位置づけ、それを一時の仇花ではなく、幕末維新期における地域レベルでの公議公論世界の形成をみてゆく格好の事例としてとらえるという視点は共感でき、議論もとても活発に交わされました。(文責:山下洋)

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2015年9月例会報告

9月26日(土)午後、岡山地方史研究会9月例会を行いました(参加者8名)。

報告者は、永山愛さん(大阪大学大学院文学研究科前期博士課程)でした。

題目は「建武政権末期における『将軍家』の移動と諸軍勢 -新見貞直への新見荘地頭職返給の位置-」でした。

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後醍醐天皇の建武政権末期、建武2年(1335)7月に鎌倉で起こった「中先代の乱」鎮定に向かった足利尊氏は、そのまま建武政権に反旗をひるがえし、畿内での合戦を経ていったん九州へ向かい、ふたたび京都に戻ってきます。

足利尊氏はその移動のさなかに活発な軍事編成を行っているのですが、従来の研究ではそうした軍事編成の分析は「いかに室町幕府~守護体制ができるか」という制度研究に終始しており、実態が不明であると指摘されました。

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今回の報告は、「新見庄地頭職」返給を目的として尊氏軍に参加したとみられる新見貞直を手がかりに、武士の戦争参加プロセスの実態把握をめざすものでした。結論に関する見通しについてはここで紹介しませんが、多くの史料を用いて様々な武士の動きを確かめながら、古文書学にも留意しつつ細かい論証を重ねられていました。

会場からは、本報告で述べられた軍事編成と武士の戦争参加プロセスについて、時期的な変化はどうか、実態把握の上にどんな時代像が描けるのかなど、活発に意見交換がなされました。

 

 

7月例会報告(「書物・出版と社会変容」研究会との合同例会)

7月4日午後、岡山県立博物館講堂を会場に、岡山地方史研究会7月例会を開催しました。参加者は、約60名でした。
今回は、「書物・出版と社会変容」研究会(書物研)との合同例会で、いつもと内容をかえ、4名の方に報告をしていただきました。
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(報告者・タイトル)
横山定さん「備中松山藩校有終館蔵書」
竹原伸之さん「旧閑谷学校蔵書」
近藤萌美さん「幕末維新期における備前岡山藩国学者小山敬容の祭祀観
          -読書・写本・書物の入手の実態から-」
木下浩さん「江戸末期在村医の蔵書について」

前半のお二人は、備中松山藩と岡山藩の学校の蔵書について、蔵書印やそれぞれの書籍の内容等について報告していただきました。
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後半のお二人には、それぞれ国学者・在村医という仕事を営んでいた人が、どのような蔵書を有していたのか、そこからどのような知を得たり、周辺の人と共有していたのかなどについて話をしてもらいました。

四つの報告をまとめて紹介することは、このホームページでは難しいのですが、いずれの報告も、岡山をフィールドにしたものでしたので、県内の参加者はもちろんですが、県外から参加された方へ岡山の地域史研究から得られた知見をお伝えする機会になったように思いました。

質疑応答の時間には、県外から参加された方を中心にご質問をうけたり、県外の情報提供をいただくようにしました。東北や鳥取などの情報をお聞きすることができたことも、合同例会を開催してよかったと思っているところです。
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例会終了後は、岡山市内で懇親会を行いました。41名の方が集まってくださり、大変盛り上がった中で終了することができました。
このような機会をいただいた書物研の皆様、ありがとうございました。
また、お忙しい中ご報告いただいた4名の皆様にも感謝いたします。お世話になりました。

8月は例会はありません。9月以降の例会については、後日改めてお知らせいたします。

2015年6月例会報告

6月13日(土)午後、岡山地方史研究会6月例会を行いました(参加者8名)。

 報告者は、この春に岡山大学文学部を卒業した小野功裕さんで、卒業論文の「歩兵第十連隊戦史―滕県城攻撃から見た兵士達の戦場―」の内容を報告して下さいました。

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 歩兵第十連隊とは、大正14年(1925)から岡山(現在の岡山大学の敷地)に駐屯し、岡山県全体を徴兵区域とした「郷土部隊」でした。報告では、その部隊が昭和12年(1937)8月に日中戦争に出征後、翌年3月に実施した山東省の滕県城攻略戦の実態を「戦闘詳報」という史料や現地の郷土史家による研究をもとに明らかにされました。特に、捕虜や民間人を殺害するという戦争犯罪にあたる行為がどれほどあったのかという点を中心に、丹念な史料分析がなされていました。

 報告者は、現在、多くの日本人は「戦争」と言えば昭和16年以降の対米戦争のことをイメージし、日中戦争については非常に希薄なイメージしか持っておらず、したがってそこでの侵略や加害の歴史についても切実な認識を持ちえていないという点をきびしく指摘されました。

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 まずは、そこで何があったのかということを明らかにし、それを社会の共通認識としてゆくことは歴史学の大きな務めであるにちがいありません。
(文責:山下 洋)

2015年5月例会報告

5月23日(土)午後、岡山地方史研究会5月例会を行いました(参加者9名)。

報告者は、斎藤夏来さん(岡山大学教育学部)と卒業生の谷舗昌吾さんでした。題目は、「栄西認識の変遷ー栄西呼称をとおしてー」でした。

まず、斎藤さんの方から栄西の実態を見つめていくためには、栄西と禅律仏教と、五山派との接続関係、異同の明確化を計っていく必要があるという説明がありました。その後、谷舗さんから『大日本史料』『五山文学新集』を中心とした史料収集、分析結果の報告がありました。Dsc_0469

今後、会誌に載せる方向でさらに研究を進められるということですので、簡単にまとめると、「葉上」「千光」等の呼称が使われるが、それらにはそれぞれ背景や意図があり、時期区分や掲載されている史料の特性を明らかにすることができるというものでした。
中世と近世とでは、「千光」の後ろに付けられる肩書きも変わっていくことも明らかになってきているということについても、説明がありました。
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その後の質疑応答では、変化していく背景にある社会的必要性はなんだったのか、栄西以外の新鎌倉仏教の始祖はどうだったのか、また使用した史料以外には対象となるものはないのか、等について質問が出ました。

谷舗さんは卒業後、働きながら研究を続けていきたいということを話してくださいました。谷舗さんと、斎藤さんの熱意あふれる発表で、質疑応答も盛り上がったと思います。お二人、ありがとうございました。

6月例会は下記の要領で行います。お忙しいとは思いますが、ふるってご参加ください。また、7月例会は7月4日に行います。終了後、懇親会を行います。懇親会に参加を希望される方は、内池までご一報ください。スムーズな例会運営にご協力いただきますよう、よろしくお願いします。

(6月例会)
    日時:平成27年6月13日(土) 13:30~
    場所:岡山大学総合研究棟二階演習室(5)
    報告者:
   
    小野功裕さん
    題目:「歩兵第十連隊戦史 滕県城攻撃から見た兵士達の戦場